自然派文学の先陣をきった島崎藤村が小説家に転向した際に書き上げた最初の長編作品
部落差別を題材とした社会的なテーマを追求したこの作品は、近代日本文学の頂点をなす傑作であると今なお絶賛されている
信州の山奥で育った瀬川丑松は、被差別部落の出身であるという秘密を抱えそれを隠しながら生きていた。しかし思想家の猪子蓮太郎の影響もあって丑松は自分が「穢多」の身分であることを宣言してしまう。もう村にいられなくなった丑松はアメリカ・テキサスで事業の話を受け東京へと旅立つ
島崎藤村(しまざき・とうそん)
詩人・小説家。筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市)出身。本名は春樹。明治学院在学中に洗礼を受けるとともに文学への関心を強め、北村透谷らと「文学界」を創刊。また詩集『若菜集』で浪漫派詩人として大きな業績を残した。のち散文に転じ、『破戒』で自然主義の小説家として出発する。1929年から「中央公論」に連載された『夜明け前』は自伝的藤村文学の集大成となった。芸術院会員。1943年没、72才。